「スペシャルQトなぼくら」(ネタバレ極力なし)
基礎データ
タイトル:“スペシャルQトなぼくら”
著者:如月かずさ
出版元:講談社
形態:ハードカバー
ISBN:978-4-06-526978-7
価格:¥1,450(税別)
概説
この作品のテーマに関してはおそらく、様々な文脈を含んだ“関係性”というものになるでしょう。こちらは英題“A Special "Q"te relationship”からも読み取れるかと思います。また、Qが強調されており、帯のあおり文からも読み取れるようにクエスチョニング*[1]の属性を持つ人物をメインに話が展開していきます。
私の知る限りにおいてですがLGBTQとして指される中のレズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダー(正確にはバイナリトランスジェンダー*[2])以外の非規範的なジェンダー・セクシュアリティを持つと明示される人物が登場する物語にはほぼ出会ったことがなく、この作品はそのような点においても貴重であり、意味のあるものであると思われます*[3]。
さらにジェンダーアイデンティティ・もしくはセクシュアルオリエンテーションのどちらかをメインに扱う物語はこれまでもあったように思いますが、双方を同時に描き出すということは特に若年層向けの作品では(少なくとも)明示的に行われてこなかったのではないかと、体感ですが感じています。こちらに関しても、自分の性をめぐって混乱や不安の中にある若い当事者やその周囲の支援者が大まかに概念・骨格を掴むという意味では小説作品としてかなり有益なものではないかと思います。
感想
概説ではこの作品の貴重さ、メリットといったことについて書き連ねましたが、ここからは読んだ感想についてできる限りネタバレを避けつつ述べていきたいと思います。
まずは装丁から、基礎データの項にも書いたように、ハードカバーという形態で出版されているため、持った時の安定感とリッチ感があります。しっかりした扉、安定感のある手触り…Big Love......。装画もかわいく、中性的に描かれているため、手に取りやすいのではないかな、と思います。(ピンクがベースだから勇気のいる子はいるかもしれない)。でも個人的には「ピンク色の本を誰が読んだっていいじゃんか!!!」と思っているので結構好きです。
帯に関してはあおり文の一つが“女子じゃなくてもかわいくなりたい”と書いているのですが、こちらに関しては確かに現状のジェンダー規範への反抗、と捉えられなくもないですが個人的にはそこを押し出さなくてもよかったんじゃないかなあ...と思いました。帯は購入したら取ってしまえばいいのであまり関係ないと言えば関係ないのですが。
お話の中身としてはネタバレを極力避ける以上どうしても薄めになってしまうのですが、もしかすると人によって刺さる(良い意味でも悪い意味でも)箇所はあるかもしれません。
また、ストーリーのラインを作るうえである程度山を作る必要があるのでしんどい描写が全くありません!とは言えないのですが、基本的にトラウマティックになる部分はほぼないのではないかと思いますし、しんどかった経験を“あれも一つの経験だしあの出来事があってよかった”というような回収の仕方をしていないのである程度安心して楽しめるかと思います。(もちろん読んでいてしんどかったりちょっとパラパラ目を通してしんどかったら離れて休んでくださいね?)
そんなわけで本作は試みとして新しく、また貴重であり、単純に作品としても楽しめるため様々な世代の人が読んで損のない作品なのではないかと感じました。私は好きになりましたし楽しめる本でした。ぜひ興味の湧いた方は手に取っていただけるとよいかと思います。
以上、“スペシャルQトなぼくら”のレビュー兼紹介(ネタバレなし)でした!
注釈
本記事中の分かりにくいかな?という言葉についてまとめましたが、ジェンダー・セクシュアリティの用語に関しては移り変わりが速いうえ、それぞれの解釈や名乗りに幅があるため、絶対にこの説明が正しかったり厳密に正しかったりするわけではないことをご了承ください。なお、興味を持ったらもっと専門的な書籍等で調べていただくのが良いかもしれません。
[1]:ジェンダーアイデンティティ・セクシュアルオリエンテーション等が決まっていない人・その状態の人のことを指す
[2]:男女二元論に適合するトランスジェンダーを指した。(ノンバイナリー・クエスチョニングの一部を含んでいないトランスジェンダー)
[3]:私の観測範囲内での話なので実際はあるのかもしれません(何かあったら教えていただけると喜びます)。また、LGBTそれぞれの登場する物語の数にも差があるため、その差も埋めていく必要があると私は考えていることを追記しておきます。
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